21 Years Old Virgin
あれ、おかしいなと思ったのは、赤崎がシャワーからあがってきた時だった。
と、丹波は思い起こした。
結構いい雰囲気の中でシャワー浴びてきたいなんていうから期待したらしっかり着込んで出て来たので、残念だけど今日はないなーと思ったら、困ったようにタオル一枚のままの俺を見て、それから自分からベッドに腰掛けてきたりしたので、あれ?とは思ったのだ。
でも抱き寄せてキスを再開させても嫌がるそぶりでもなかったし、たどたどしくも一応いれた舌を絡め返してきたりしたから、もしかしたら脱がされるのが好きなのかもしれないと思ったり、また普段とのギャップにちょっと楽しくなったりしてすぐにそんな違和感は忘れた。
「赤崎、脱がされるの好きなんだ?」
「そんなんじゃないス」
じゃあ、なんだろう。
ちらりと気になったが、単なる照れ隠しだろうと気にせずに続行することにする。
夏場のこと、着ているものといってもたいした事ないので、キスをしたり舐めたりしながら脱がしていく。あらがいこそしないものの、あまり協力的ではなかったが、何だか夢中でキスしてるみたいだからそのせいかもしれない。
「腰浮かせて?」
上を全部脱がせてしまうと、とりあえず自分の首に腕を回すように誘導して、それから耳にそう落とし込む。普段は何かとうるさい後輩はこんなときだからか意外に何も言わずに素直に腰をうかせた。そういえばベッドに移動してから終始、受け身に徹しているのも何だか普段とギャップがある。
少し空いた隙間を使って、ジーパンを下着ごと脱がす。
体を浮かす関係で必然的にしっかり抱きついてくる形になった赤崎の体は、なぜかぶるぶる震えていた。
巻き付いている腕から、すぐ首のあたりに触れている短く切った髪から、脱がすのを支えるために腕を回した腰から、震えが伝わる。もちろん寒さではないだろうし、腹なら腹筋のなさを笑ってやるが、これはどう考えても違うだろう。
とすると。
他はもうひとつしか可能性がなくて、いやまさかと丹波は浮かんだ答えにとまどう。
「もしかして、初めて…とか?」
思わず口をついた言葉に、おいおい何言ってんだ俺、こんなこと女の子にも聞いたことないよと心の中でツッコミをいれる。大体、初めての女の子だって恥じらいはしたって、こんな天敵に遭ったみたいにぶるぶる震えるもんじゃないだろ。咄嗟に言ってしまったものの、いくらなんでも怒るかもしれない。
「……初めてじゃ、悪いスか」
自分で打ち消した考えを肯定されてその予想外の返事に丹波は我が耳を疑った。
初めてって、え? え、お前、初めてなのにあんな軽いノリで誘ってついてきちゃったのとか、お前バージン捧げちゃうほど俺のこと好きとかはないだろとか、てっきりこんな調子じゃ誰かしらにとっくに手つけられてるのかと思ってとか、言ったら確実にまずい言葉が頭の中でばんばん回る。
もちろん赤崎の年齢だった10年前ならいざしらず、そこは年の功で顔には出さない。
「やー…いやじゃないけど、やめる?」
出来るだけやさしく髪を撫でながら聞いた。
筆下ろしだか、ロストバージンだか正直どう言っていいのか分からないが、丹波にしてみたら相手が初めてでも別に構わない。若い頃は慣れない相手とのセックスは色々と気を使わないといけないし、相手に動いてもらうことを期待できないのが正直に煩わしかったが、今はそんなことも絶えて久しいせいなのか、自分が年相応にスレたからなのか嫌いじゃないというか、面倒以外に考えていなかったそれが何か特別なことに思えたりする。
しかしだからこそこんな勢いでやって、後で後悔したらさすがに可哀想だと思う。女の子と違ってどのくらい“初めて”に意味があるのかは分からないが、この際どっかの風俗ででも捨てちゃいたい童貞よりは少なくとも重いだろう。
「こんなの何ともないッスよ」
丹波の気遣いを無視して、赤崎は口調だけはいつもの赤崎らしくそう答える。
体中はぶるぶる震えたままでそれが妙に可哀想だ、と丹波は思った。それに今日び、たかだかセックスくらいでこんなに怯えてるのもないんじゃないか。
「いや何ともないって」
どう考えても何ともあるだろう、その震え。
しがみつかせたままの状態では話しにくかったので、とりあえず、そのまま自分の体ごと赤崎をベッドに押し倒す。ベッドの上に仰向けに寝かせてから体を離すことが拒絶に取られないように、ちゅと音だけ派手なキスをひとつして、赤崎の頭の両脇に手をついて腕を伸ばすと体を浮かせた。
見下ろしてみると、目でみて分かるくらいに震えているし、あれだけ普段、練習といわずピッチ上といわず生意気盛りなのが嘘のようにじっと見ていても目すら合わない。
「さっさとしたらどうスか」
じっと見ていると、丹波の躊躇を察して普段の憎まれ口のようなことを言う。
まぁ、本人が良いならいいかと、丹波も腹をくくった。
「赤崎、お前ね、誘うならもっと可愛くしとけよな」
そういえば初めてな相手を寝るのなんてどのくらいぶりか分からない。
どうしようかなと内心思いながら、震える体をそっと撫でると、それだけで怯えたように腕を掴んできた。拒否というには弱々しいそれに妙に煽られる。
「できるんじゃん」
丹波はにやっと笑うと、赤崎のすでにたちあがっている胸の突起をべろりと舐めた。
赤崎の体が驚いたように跳ねるのをてのひらで軽く抑える。さすがにこんなに緊張されたままでは手も出せない。少しでも緊張がとけるように、てのひらで腹筋から太ももの外側のラインを、ゆっくりやさしく撫でる。セクシャルな触り方はしない。キスは好きみたいなので、あやすように軽いキスをいくつも落とす。
「何…が…スか」
少しの間そうしていると、安心したのか体の震えが幾分マシになってきたようだった。
強がる一辺倒だった口ぶりにも何となく変化がある。まだ緊張しているくせに、どこか期待がちらついている気がする。今の赤崎はずいぶん無防備だ。そうやってあんまり煽るなよと思ったが、相手は初めてなのでまさかそんなこと考えてもないだろうと思い直す。
「そのまま良い子にしてろよ」
「はぁ!?」
何だそれやっぱり可愛くねえ、と思わず笑ってしまう。
とりあえずもう大丈夫だろうと判断して、体をゆっくり撫でていた手をするりと中央に回して、同時にさっき少しいじりかけた乳首を今度は思い切り吸った。
「ふ……っ、あ」
直接的な刺激に赤崎が声をあげる。緩く勃ちあがったペニスを何度かしごいてやると、あっさり固くなって、湿り気を帯びた。それに若いなぁとか思ってしまう。弄っていた乳首から口を離すと適当に胸のあたりにいくつかキスを落とす。心なしか肌の弾力が違う気がする。ペニスを刺激する手の動きは適当に強弱をつけながらそのままにして、たしかめるように何度も肌に舌を走らせる。軽く噛んだり、吸い付いたり。ああ、うんやっぱり違う。何か張りがある。
唇に触れる肌のすべらかな感触が気に入って特に首筋のあたりを重点的に舐める。
意外にも、赤崎はこの緊張ぶりさえなかったら開発済みかと誤解してしまうほど敏感だった。丹波の小さな動きもいちいち感じるらしく、唇を噛んだり、少し動きを緩めると詰めていた息を吐いたりと、反応を返してくる。積極的に動くわけでもないが演技もないその小さな反応がすっかり楽しくなってきていた。もっと乱れさせたい、と思う。
「あ?」
腕の中で大人しく反応を返していた赤崎が突然、腕を突っ張ったかと思うと、ごろりと体を横転させた。
「何だよ、いきなり」
「しつこいんスよ」
せっかく楽しくなってきたのに避けるように体を回したのが気に入らなくて、腹立ちまぎれにぎゅっとペニスを握る。
途端、赤崎は体をぶるると大きく震わせて、手の中で果てた。
「え?」
いや俺そんなにしつこくした?と聞き返す前にあっけなく弾けたそれに少し驚いて、それから突然避けるような動きをした理由を知って丹波はにやりと笑った。赤崎は横を向いたついでに顔をシーツに押し付けているので丹波からは表情は見えなかったが、ぜえぜえと肩で息をしているので想像するのは容易だ。
「へえ、そんなによかった?」
にやにや笑って、剥き出しの肩にひとつキスを落とした。
汗をかいた肩はほんの少ししょっぱい。
「オ…ヤジ臭いスよ、それ」
息も整わないくせに赤崎が憎まれ口を叩いてきた。でもお前それ涙目になってるのわかってる?と思ったが言うかわりに、出したばかりで縮んだペニスをゆるゆる撫でてやる。正直、自分なら出した直後はむずかゆくて触られたくもないが、若さのせいなのか、軽く嫌がるそぶりをしただけで、それ以上はあらがわなかった。それどころか実際に上下に手が動くたびに手の中でペニスはむくむく固さを増した。赤崎の出したものでぐしゅりと粘着質な音がする。
「まー、こんなに若くはないな」
するすると股間を撫でて、その手をするりと尻に回す。軽く撫でると一端、体を離した。丹波にしてみれば単にローションを取るためだったのだが、離れようとする気配を察して体を反転させた赤崎がそのまま上体を起こしてぎこちなくキスしてきた。そんなに分かりやすく引き止めてくれると可愛くて股間が大変なんですけどと思いつつ、とりあえず軽く舌を絡めて答える。赤崎の、離れる目が濡れている。
「や、ローション取るだけだから」
自分の声がざらつく。
あー、まずいなぁこれと丹波は心のなかで一人ごちた。
タイトルは映画「40 year's old virgin」のもじり。
絵チャにお邪魔した際に投下したもの。前戯2時間!って仰ったので、頑張ったら書き終わらなかった。