退廃する脳と嗤う王様


 城西がドアのロックがしまる音を聞くのと持田に壁に思い切り押し付けられるのとは、ほぼ同時だった。持田はそのままスーツのジャケットを雑に脱ぎ捨てる。
「スーツが皺になるぞ、持田」
 城西は床に手荒に投げつけられた持田のジャケットを眼で追いながらいった。移動用の揃いのスーツは見るも無惨に床に広がっている。
 ネクタイを抜きながら、ぶはとピッチで時折見せる時のように持田が吹き出した。
 ピッチを離れた持田が滅多に見せないそれ。
 試合直後の持田はハイで、上機嫌というよりはスピードを出したあとにうまく回転数を下げられないエンジンのようで見ていて危うくすら思える。
「シロさん、それマジで言ってんのウケるんだけど」
 ウケるといった割に持田の目は少しも笑っていない。
 それどころか獲物を見定めて舌なめずりをする肉食獣のように目を光らせて、随分と凶暴な顔をしている。それこそゴールマウスを睨んでいるときのように。
 城西は本能的に少し身を引くが元より壁に押し付けられているため、それは二人の間のをわずかな身じろぎほどの距離も広げない。その様子に持田はセックスというには多分に剣呑な表情を浮かべ、すいと手を伸ばす。刹那、城西のネクタイが勢いよく引かれ、摩擦の熱と痛みが城西の首を走る。
 眉をしかめる城西の姿に喜びすらしているようだ。
 シャツに手をかけると同じ様に乱暴に開いて行く。
「ボタンが」
 城西はつぶやくと緩く回した手で、持田のワイシャツ引く。
 咄嗟に出た言葉だったがそれに持田はひどく不快な顔をした。
「どうでもいいよそんなこと」
 言い捨てると、持田は城西の首筋に噛み付く様にくちづけた。熱いぬるりとした感触の後、ピリっとした痛みが首に走る。
「持田ッ」
 まるで食事のように口に含んだ皮膚にを噛む。城西が同じテンポでのってこないことへのいらだちか、あるいは逆に獲物を見つけた喜びなのか、睨むように嗤う。持田は自分のシャツをTシャツのように上から勢いよく脱ぎ捨てる。
「持田」
「黙ってよ、シロさん」
 うるさいよ、サムイし、と付け足して持田は城西のズボンの前を撫でた。それが持田の満足するような硬い感触を返さないことに軽くまゆを寄せる。
 当たり前だ。
 同性でチームメイトである持田と関係をもってしまったこと以外、いたってノーマルな性嗜好の持ち主である城西の、常識的な思考では、持田の急激な変化についていけない。いつも。持田はそれを快く思わない。正しくは、そんな城西の心情ことなど意に介してはいないだろう。持田が不快がっているのは、単に自分が望んだものが得られない不満からだ。
「せめて場所を移さないか」
 城西の、しごく控えめで真っ当な提案は、ズボンの前をくつろげもせずに強引に入ってきた持田の手によって、あっさり却下される。窮屈な隙間に強引に入ってきた手は、同じくらいの強引さで城西のそれを乱暴に掴んだ。強引に手を動かしてくるが、手が入っただけでもギリギリで、満足には動かない。上下にしごかれるというよりは揺すられるのはもどかしくて、また持田のその焦れた動きが変な感じに城西を刺激した。
 思わず、城西はその手首を掴んだ。
 顔を上げた持田にキスを仕掛けると、自分でズボンの前をくつろげる。途端に自由に暴れ回る手はそのままにして、持田のズボンのベルトに手をかける。目の前の顔が、にやりと嗤った気がした。
 キスの終わりに、最初に噛まれたのと同じ場所を持田が食んだ。痛いと感じたはずが、もう痛みではなく熱いとしか感じられない。
「くっ」
 いつも通りの持田のペースに乗せられるのを自覚しながら、城西は荒い息を吐いた。
 背中のラインから左手を滑らせて、そのまま、さけ目を探る。場所を確かめるように指で押すと、そのまま尻たぶを人さし指と中指で開いた。右手を唾液で湿らせて、そのまま奥を探る。立ったままの姿勢のせいなのか、それはたやすく入り口に収まるが、奥までは入らない。指の中程までに触れるその熱さがもどかしい。指を開いて強引に開いていってもそれはけしてその先に入っていかない。もどかしいのは、城西だけではなく、そうされている持田の方もだったようで、持田は片足を上げて、膝を城西の体のすぐ横の壁につくと、手でもてあそんでいた城西の、もうすっかり勃ちあがったそれを奥をひらく城西の指に押し付ける。そのまま城西の指に自分の指を絡めて抜くのと入れ代わりに、城西のそれを自分の中に押し入れた。
「もちッ」
 持田は城西の体に体重を預けて、強引に飲み込む。壁につけた膝を折り曲げて、全部をおさめると、城西の腰に手をやって体を支え、動いた。
 それがあまりにも刺激が強くて、城西は自分でどうすることもできずに、自分本位に動く持田の体に動きやすいように腕を回して、それに合わせて腰を使うのがやっとだ。
 はじめから激しかったにも関わらず、持田は少しもペースを緩めることなく、強引に自分とその中に飲み込んだ城西を高めていく。動くたびに触れる布の煩わしさに舌打ちして、それでも、それを取りのけるために動きを止めることはしない。
「ッ」
 持田が、声を上げて、城西の右胸をべろりと舐めたかと思うと唇で肉を押し上げるように含んで、噛んだ。甘い痛みがビリっと城西を刺激する。貪られ、まるで食べられているようだ。
 その錯覚と、刺激に、城西は我を忘れたように、突き上げた。
「あッ、あッ」
 持田が、愉悦の声をあげる。声をあげて、またより激しく噛んだ。ちょうど下腹のあたりにある持田の湿ったそれをより強く挟みこむように、持田の腰をさらに強く引き寄せる。
「持田ッ」
 それから何度か突き上げて、それから名前を言って果てた。さすがにそれどころではないらしく、いつもくる文句は来ずに、持田も荒い息を返して、出したあとの残りすら絞り取るように体を何度か揺すると、自分も城西と自分の腹の間に吐き出して、重力にまかせてずるりとそれが抜けるのに合わせて、壁についていた膝を降ろすと、面倒くさそうに立ったままの城西に寄っかかってきた。
 脱力する持田の体をゆるく支えながら、息が整うにつれて、そのしっとり湿った肌が少しずつ熱さを失って普段の体温に戻って行くのを、城西は、安心とすこしの不満がないまぜになった複雑な気持ちで、抱きしめた。

 

どうしても下乳噛ませたくて書き直しました。推敲してないので直しにきたらすみません。