そんなもの甘すぎて食べられない



「だめだって言ってんだろ」
 本日何度目かの後輩のお願いに、堺は同じように否定を返す。ちなみに「本日は」何度目かでしかないが、今年で数えれば両手どころか両足の指を含んでも足りない。
「バレンタインですよ!」
 頭痛がする。
 誰だ、シーズン開始と二次合宿の合間のクソ疲れてる時にたまのオフをこんな馬鹿と一緒に過ごそうなんて思ったのは。癪なことに、二十代前半のクソ体力と、おめでたい脳みそは、頭の中にバレンタインとしかインプットされていないらしく、そしてこのバカは、「バレンタインは恋人と甘い時間を過ごすとき」という女子高生みたいな思考しかしないらしく、その頭の悪い主張に付き合わされているだけで疲労感が半端ない。
 大体、まして、バレンタインだから、なんてマイナス要因でしかない。
「バレンタインだからだろ」
「何スかそれ」
「分かれよ、チビ野郎」
「今、身長関係ないじゃないスか!」
 関係ない部分に食いついた、チビ頭を軽く小突く。
「男2人で練り歩く日じゃねえだろ」
 本来、世良はこういうことには聡い方だし、割と、(あまり認めたくないが)自分と同じで、そういう馬鹿な体面みたいなものには、敏感だ。それが何故か今回だけはやけにしつこい。
「…だって堺さんチョコもやだって言うじゃないスか」
「当たり前だろ、あんな糖分の塊」
 ただしチョコに関しては別に堺だけが嫌がった訳ではなく、正確には世良も「じゃあもういいからお前が食えよ」という堺の妥協策をものすごい嫌がったので、2人とも一致して却下だ。
「で、バレンタインデートも駄目なんて」
 何かもう本当に面倒くさい。
 しかもここまでさも大切なことかのようにバレンタインバレンタイン連呼されると、何かスルーしようとしている自分が悪いことをしている気分になってくる。
「分かった。ようは普段と違やいんだろ」
「?」
 頭にデカい「?」をつけながら、それでも世良は動物的直感で自分の主張が通りそうだと感じたらしく、オーバーに何度も頭を上下させる。
「じゃあ、バレンタインだからやらせてやる」

 

続けたい(願望)。