でも欲しいのはあなたを抱く腕


 腹の間に吐き出された精液は自分のものではない。
 それなのに世良のそれに自身のものを密着させている状態では吐き出すときの震えや熱どころか、精を吐いて力を失う様まで鮮明に伝わってくる。刺激は本物で、それはまるで擬似的な射精だ。たしかにあった感覚と熱を溜めたままの現実のギャップに頭がくらくらする。
 抱きついた世良のまだ整わない荒い息が、自分の胸の動悸にシンクロしているようで厭わしい。
「このチビ」
「いてっ」 
 一人だけさっさとイって、呑気に人に抱きつきながら小休止する世良を軽く小突いて、サイドテーブルにあるティッシュで吐き出されたものを始末する。
 世良はくすぐったいのか軽く身をよじった。小さく身じろぐ、ただそれだけの動きも、この状態で膝の上でやられては刺激になる。
「お前、責任とれよ」
「へ?」
 間抜けな返事は聞かなかったことにして、世良が仕込んでいたコンドームの袋を破ってかぶせると、どうやら分かったらしい世良がまじまじとそれを見た。
 それからあろうことか、唾を飲み込んだ。
 世良がそのままゆっくり顔をあげる。
 その顔は紅潮している。
 世良は自分からのしかかるように腰をあげてきたので、それを両腕で支える。世良の手が堺の肩にかかり、丁度、位置を探るように世良が動いた。
「待っ!?」
 覚悟を決めたらしく深呼吸したと思ったら、世良が一気に腰を沈めた。散々ほぐしたとはいえ、正直、そんなに勢いよく入れて大丈夫なものか堺には自信がない。というか、まさかいきなりそんなことをしてくると思わなかったので、驚くのと、いきなり強烈な締め付けがくるのとで、思わず目を見開いた。
「ふ、は」
 驚いた堺の顔に、世良がくしゃりと笑った。
 本人は余裕があるふりをしているのだろうが、いつもの世良らしくもなく眉が寄って、困って笑ったような顔になっているし、バランスを取るために堺の手に置かれた手は指先が堺の肩に食い込むくらいに力が入っている。
「堺さん、今すっげえエロい顔してる」
「何だよそれ、お前。わけわかんねえよ」
「本気で言ってるんスけど」
 だったら余計に意味がわからない。
 世良は自分の言葉を証明するように急にキスを仕掛けてこようとする。世良の上体が自分の方に寄ってくるのに合わせて、軽く片手で腰を支えたまま、空いた手をベッドについて、そのまま堺は世良ごとベッドの方に体を傾けた。それを世良は別段気にした風もなく、両肘を堺の頭の脇のベッドについて、抱えるようにキスを仕掛けてくる。状況は全く反対だったが、丁度最初に世良に押し倒された時のような形になる。
 自分から仕掛けてきたくせに、注意散漫な舌を捕らえて、そのまま裏の柔らかいあたりを舌の先でくすぐるようになでる。出来るだけ意識をキスに集中させて、体が不安定にならないように世良の腰に回した腕に少し力を込める。
「動くぞ」
 唇が離れたのを潮に、堺はそう短く告げて、下から緩く腰を動かした。
「うわ…っ」
 世良が色気のない声をあげる。
 声と同時にただでさえ狭いそこが締め付けられる。
 世良は、堺が突き上げるのに合わせて短く細切れに息を吐く。体は揺すられるにまませたまま、普段はうるさいくらいの口がそれきり、何も言わなくなってしまう。やけに浅い息づかいとそれが気になった堺が顔を覗き込むと、世良は口の中の息をまたひとつ吐き出すと、へらりとだらしなく笑った。
 これがさっき世良の言った「エロい顔」なのだったら、自分もさぞかし情けない顔をしているんだろうと思ったのが、ほとんど限界だった。
 最後に強めに奥に押し込んで、それから両腕に力を入れて世良の体を持ち上げる。気配を察して世良が腰を浮かせるのでそのまま自身を引き抜くと、体の中心からずらして座りなおさせる。
「…っ」
 荒い息をしながら堺は、いくぶん乱暴な手つきでコンドームを外す。
 そのまま息を整えていると、世良と目が合う。
 このタイミングでは勘弁なキスをいくつかと何故か得意げな顔。
 癪だったので、そのままかにばさみにして転がしてやったら、そのまま首に抱きつかれてしまった。へばりついてくる世良の重みが、不覚にも疲れた体にしっくりきたので、そのまま放っておくことにして、堺は目を閉じた。

 

End.

 

さすがにこのまま寝たわけじゃないですよ!笑 オーダーには初エッチなんて項目はなかったことに書き上がってから気づきました。設定のっけちゃった!わー!(焦)