You give me sth St. Nick can't


 駅の改札をくぐるなり、堺は自分自身に舌打ちしたい気分になった。
 何しろ地下の通路を埋め尽くさんばかりに人の群れが流れていたので。
 その混雑を、久しぶりにカレンダー通りの休日に町にでたせいだと思ったのは最初だけで、すぐに理由は知れた。
 なにしろ町はうんざりするほどクリスマス一色だ。
 これでもかと飾られたイルミネーションや、あちこちに鎮座するクリスマスツリー。
 携帯の充電器が壊れたのと、ついでに何かCDでも見るかくらいの軽い気持ちで家をでた堺としては、そんなお祭り騒ぎの中に飛び込む心構えは正直、ない。とにかくさっさと用事を済ませようとして入った駅ビルの中にある店はどこも混雑していて、よほど必要でない限りは買い物をする気も失せるくらいには人だらけだ。菓子屋が混むのはともかく家電量販店までこの混雑は一体なんなんだ。また来るのも面倒だからと充電器をひっつかんでレジに向かうが、そこでみた行列が長蛇どころか遊園地の乗り物待ちの行列を仕切るようなポールまで出て3回も折り返していたので、げんなりして棚に戻した。
 待つくらいなら携帯ショップまで行った方が早いと諦めをつけて、仕方なく堺は浮かれた町を突っ切る。家を出た時間が遅いせいかちらほらと帰路につく人間がいて、みればクリスマスカラーのおそらくプレゼントか何かであろう紙袋や、ケーキなんかをぶら下げている。それはネオンやどこの店からか流れ出ているクリスマスソングに随分しっくりと収まっている。
 騒がしい町を歩いていると、懐かしいような錯覚に襲われる。
 堺自身が浮かれた人間のひとりだったのはもうずいぶん前だ。
 祝日にふさわしくケーキだのシャンパンだの買い込んだり、夜景のみえるレストランを予約したり、いかにもクリスマス用なプレゼントを用意したり。
 そういう頃もあったな。
 と、思い出す。そのどれを一緒にした相手も今は縁がないけれど、あの時は確かにこの浮かれきった町や人ごみをさしてうっとおしくも感じなかったはずだった。妙に感傷的になったのを自覚して堺はチっと自分自身にひとつ舌打ちをくれると、一層歩を早めた。

 

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B'zの「いつかのメリークリスマス」な感じのイメージ。