それではリクエストにお答えして


「赤崎、赤崎」
 さして距離もなかったが丹波はわざわざ手招きをして赤崎を呼んだ。いぶかしそうな顔をしながらも赤崎は呼ばれるまま数歩、距離をつめてくる。
「何スか」
「ばんざーい」
 しごく真っ当な、赤崎の問いはあえて無視して丹波は両手をあげて万歳のポーズをする。
 あ、なんか生意気にも呆れた顔してやがる。
「…」
「ほら、ばんざーい」
 丹波が引きそうにないのを見て取ったのか、それとも仮にも先輩だと思い出したからなのか、赤崎はつとめてやる気なさそうにそれでも同じ様に万歳のポーズをした。
 赤崎がそうやってだるそうに両手を上にあげたのと同時に丹波がするっとTシャツを脱がせた。
 シャツの下から出て来たのは驚いた顔。
「な、なにするんスか?」
 顔が真っ赤だ。
 このチェリーめ。
「期待にそえるようなことはしないから」
「期待ってなんスか!」
「してないの?」
 ぐっと黙る。
 こういう時の赤崎は妙に素直だ。チームでもこのくらい簡単ならいいんだけどなー先輩としてはなーと丹波は思った。特に試合中。不幸中の幸いで審判に食って掛かるタイプではないからカードの心配こそしなくていいけど、もう年だから逆サイドから走ってなだめに行くの結構疲れんのよ。石神でてりゃ良いけど、そうじゃない時に後半残り15分で黒田とお前がもめ始めた時の嫌さったらないね。しかもご丁寧にこんなときばっかり下がってね。もしスタミナ切れたら完全にお前らのせいだからなと思うもんね。いっそドリさんの目の前でやるか、お前がサイドチェンジして黒田が上がってきた上で揉めろと思うもん。
 思い出したら頭にきたので、丹波は目の前の赤崎を軽く小突いた。
「何なんスか」
「ホレ」
 丹波は赤崎にTシャツを投げ渡した。
 商業的な範囲でキッチュなデザインはおそらく好きな人間は多いのだろうが若すぎてとても丹波の好みではない。何かラフォーレ付近を歩いてたら着てるやついそうな柄というか。ただその鮮やかな色は赤崎の髪の色によく似合った。
「何スかこれ!」
 いきなりシャツを脱がされたと思ったら今度はTシャツを投げつけられて、赤崎は困惑半分いら立ち半分といった態だ。
「やる」
 丹波は短く言うと、顎で着てみろと促す。
「は?」
「知り合いがブランド立ち上げたんだよ、でくれたんだけど、さすがになー」
「あー、あざっす」
 赤崎は合点がいったら今度は手の中のものが気になるらしく、さっそく広げて柄を見ている。
 表情から察するに気に入ったらしい。
「おっさんには似合わない柄ッスね」
 誰がおっさんだ。
「まだ31だっつの」
「おっさんじゃないスか」
 赤崎はあっさり手に持っていたTシャツを被った。着た状態で下を向いてまだデザインを見下ろしている。
 丹波はそれを少し物足りなく思ったが、すぐに自分で着ろと促したくせにと打ち消した。
「まぁ、乳臭いお子様から見たらおっさんか」
「誰がッスか」
「あれ言ってほしい?」
 尚も言い返そうとする赤崎の口に丹波は軽くキスをした。
「!?」
 丹波はまんまと驚いた顔をしてやがると笑った。とっさに男が服を贈るのはそれを脱がすためなんて言葉が浮かんで、さすがに自分でもオヤジ臭いけどあれ案外、本当なんだなと妙に納得してしまう。
 だからお前、そんな期待した顔でみないでくれる?

 

別にキリリクとかじゃないですよ!(題名)