Trick or Treat?


 ハロウィンに一番近い週末のある日。
 イースト・トーキョー・ユナイテッドのホームは特設ステージが立てられたりといつになく賑やかだ。
 ハロウィンホームパーティーと冠して、有里が特に気合いを入れて考案したのはようはいつもよりも少しはしゃいだ感じのするファンサービスデーで、スタッフはもとより若手選手もかり出されてお祭り騒ぎに花を添えている。トップチームに所属していてギリギリルーキーではない程度、の、清川と石浜は当然のようにふれあいコーナーなる場所に配置された。
 持ち時間は20分の予定だけど、とりあえずなくなるまで配っててサインはなしだけど写真はOKになってるからと言われて渡されたパッカくんの飴はジャック・オ・ランタンの形をした容器に入っていた。いたというのは、20分と言わずあっという間に跡形もなく貰われていったからだ。
 空の容器を抱えて合い言葉を言われても若い二人には対応できない。
 とりあえず一旦裏に逃げることにして、人の切れ目に二人は関係者通路まで戻って来た。
「あ」
 空の容器をブラブラさせながら歩いていると、清川が急に声をだした。
「キヨ?」
 くるりと隣の石浜の方に向き直って、歩くのをやめる。
 それから手をぱっと石浜のほうに伸ばした。
「トリックオアトリート」
「もう何もないよ」
 そもそも容器が空っぽで子供達の合い言葉に耐えられなくなって裏に逃げてきたのだから、飴が残っていたらここにはいないだろう。先着100名様分だから100回は聞いたその言葉に石浜は少しうんざりしている。
「じゃあ、トリックの方だ」
 清川は頬に軽く触れるだけのキスするとさっと身を翻してしまう。
 髪の毛に隠れてしまって表情は見えない。
 すたすたと戻っていってしまう。
 取り残された形になった石浜は清川が触れた方の頬を手でおさえながら、ぼんやりしている。
「トリートだった気がするけど」
「なに?」
「なんでもない」
 振り返った清川の顔が赤い。
 つられるように掌の下の頬がじわじわ熱くなってきた気がする。何げなく触れただけだったのにそのせいで腕を頬から外せなくなってしまって石浜はやっぱりトリックの方だったと思い直した。

 

お菓子をくれないといたずらしちゃうぞ!