コメセイヴェッラ


「いい顔だね、コッシー」
 ジーノは腰を使いながら言った。
 ベッドの上、ジーノに組敷かれている村越は眉を寄せる。
 仰向けになる村越の顔はジーノからよく見える。
 目尻を赤く染めて耐える様に眉を寄せる姿は普段のストイックな雰囲気と情事に相応しい色気を両方持っている。それを惜しげもなく晒して、自分がどんな顔をしているのかなんて考えもしないんだろう、自分の言葉も戯れ言だと聞き流しているのかもしれないとジーノは思った。何しろ自分のもっているものを振り返らない男なので。
 着飾らない彼が色々なものを削ぎ落とした今の姿は美しい。
 愉快な気分でジーノがぐりと中で回すと、下で村越の体がびくりと跳ねる。
「本当は胸毛のひとつも生えてればもっとセクシーなんだけど」
「ッつ、残念だったな」
「感触は良いから別に構わないけどね」
 つれない言葉にジーノは肩をすくめた。
 それから、ついと村越の胸を撫でる。
 指滑りのいい滑らかな肌もごく薄い脂肪の下でひくひく動く弾力のある筋肉も、体中に張り巡らされている鋭さも、どれもジーノのお気に入りだ。これで立派な胸板を飾るように胸毛が生えていれば雄々しさがましてもっとセクシーなのにと思ったのは本当だけれど、かわりにこの指触りをなくすのも惜しい気もする。
 残念だけれど鑑賞するのではなくて楽しむのなら今のままの方がいいかもしれない。
「フフ」
 自分の出した結論に満足して、ジーノは浮かれた様に笑う。
 それから自分の腰に巻き付かせた村越の足を抱えて位置を直すと、ゆるゆるとした動きを激しいものに変える。
「ッふ……っくっ」
 ジーノの動きが激しくなるのに押し出されて村越の体が動く。ベッドの上で体が滑る。
 揺すられるのに合わせて村越の頭がゴツゴツとベッドのヘッドボードにぶつかる。村越はそれを気にした風も見せずに、それどころかジーノの垂れた少し長めの髪を少し乱暴に掻き揚げた。髪は撫で付けられてもすぐにパラパラと落ちてしまうが、ジーノは前髪が流れて黒い筋に遮られる視界の中、自分に手を伸ばす村越をやっぱり美しいと思った。
「今のままで充分セクシーだ」
 歌う様に前言撤回すると、ジーノはまた楽しそうな顔をする。
 それから動きながら村越の頭とヘッドボードの間にそっとクッションを挟む。王子の二つ名にふさわしくそれはそれは丁寧な仕草で。
「こんな時にふざけ…んな」
「ボクもセクシーだって言ってくれてもいいのに」
 その言葉を最後に戯れるのをやめてジーノは上体を倒し、ぐいと今までよりも深く突いた。
 ぐいぐいと中を抉る様に何度も突く。
「……うぁ、あっ、あっ」
「…ふっ」
 息が上がる。
 荒い息の中ジーノは自分の下で乱れる村越をああやっぱり美しい、と思った。

 

胸毛発言=王子は美的感覚も国際派。題名は伊語で君はなんて美しいんだろう(Come sei bella)。