「思ってねえよ、いつもお前が居るなんて」
甘えてるなんて思われたくなくて言ったつもりだったその言葉はどういうわけか手ひどくスギを打ったらしく、何故か傷ついた顔をされた。
スギはそれがどういう意味かなんて聞かなかった。
そう、と短く言っていつもの顔になった。
そのくせ視線は泳いでいて。
それを見ながら、ああ、好きだと思った。
俺は。
お前を。
アイウォンチューじゃだいぶ足りない
「お前らホントいつも一緒にいるなぁとは思ったけど、これほどとはなぁ」
「クロがさ、お前が居ない時に右振り返ってなぁスギとか言うから」
「隣に居るのが当たり前だと思ってるんだよ」
そんなことを勝手に言い残して、当人はさっさと去っていってしまった。バラされた当人は顔を真っ赤にして突っ立っている。黒田はしっかり体育界系気質なので余程のことじゃないかぎり先輩のすることにはあらがわない。自分の主張が強すぎるのとサッカーに対する熱い思い入れのせいで監督には年中噛み付いているが、黒田は典型的な体育界系の縦割りに重きを置いているタイプだし、それがしっかり根付いている。
「笑うなよ」
隣の杉江に黒田は言った。
ちなみに杉江と黒田は指摘されたようにいつも通りに左右に並んでいる。
「笑ってないよ」
じゃあその顔はなんだと黒田が指摘して、杉江はいつものしれっとした顔で地顔だよと返した。
いつものテンポだ。
「ったく。思ってねえよ、いつもお前が居るなんて」
当たり前に出た言葉だった。
杉江はそれに何もコメントをせずに、そうとだけ返事をする。油断したら死にそうな声が出るんじゃないかと思う。何もおかしなところはない、練習にオフにとやたらとつるんでいるからといって二人はただの、しいていうなら多分お互いにチーム内で一番仲の良いチームメイトで、自分の気持ちはともかくとして、あくまでもチームメイトにすぎないので。
「俺はお前が居んのが当たり前で、それにあぐらかいてるみてぇのは嫌なんだよ」
黒田の言葉に杉江はさっきとは違う意味で激しく動揺した。
さっきのように、そうと当たり障りのない相づちを入れる事さえ出来ない。
「なんだよ」
無言のままの杉江を黒田が睨む。
「なんでもないよ、ただクロに惚れ直してるところ」
「お前までからかうなよ」
黒田は呆れたといった顔をして、それで頬を赤く染める。
それを見ながら、杉江は、ああやっぱり好きだなと思った。
スギとクロはスギ、クロの順で並んでることが多い気がして。超バカップル。