ライクじゃなくてラブなんだけど


「なんでお前まで来てんだよ」
 黒田は盛大に顔をしかめて、平然と隣に並ぶ杉江を睨んだ。
「なんでって?」
 杉江はそれに平然としている。
 まるで隣に並ぶのが当たり前のように。
 普段ならば黒田とてそれに否やはなかったが、今夜ばかりは違った。
「なんでもかんでもあるか!スッチーだぞ!」
 夜の公道に、あんまりな黒田の叫びが響き渡る。
 実際に前で犬の散歩をしているおばさんが驚いて振り向いた。
 二人は同じチームの先輩に連れられてさっきまで飲み会に参加していた。より正確には先輩数人と杉江と黒田を合わせたのと同じ数の女性たちとの集まりで俗にいう合コンだ。集まってしまった女子の参加者との頭数を合わせるために急遽連れていかれたのだが、全員スチュワーデスというだけあって美人揃いだった。残念ながら黒田には特に仲良くなった女の子も居なかったがそれなりに良い雰囲気を作っている組み合わせもちらほら出て、始まる前からの打ち合わせ通り、二次会に向かう道のりで、カップルになりやすいようにうまいことはぐれてきたのだ。
 しかし何故かそれにきれいなお姉さんに熱烈にアタックされていたはずの杉江もついてきていた。
 当たり前の顔をして隣に並ぶ杉江は普段であれば何でもないが、今夜ばかりはそれがものすごく不服だった。
「スッチーだぞ!しかも美人で巨乳!」
「まぁ綺麗だったね、確かに」
 黒田の叫びにやっと杉江が言葉を返す。
 しかしそんなことでは黒田の興奮は収まらない。
「だろ、それをお前なにはぐれてやがんだよ、一人で」
「クロも一緒だろ」
 一人じゃないという意味なのだろうが、男と一緒でどうするよと黒田はまた盛大に顔をしかめた。
 合コンの帰りに男2人なんて喧嘩でいうなら負けだろと黒田は思う。しかも今夜の杉江の場合、思わず周りが遠慮してしまうほどあからさまにコナかけられいたのだ。美人のスッチーだぞ!と何が不満なんだ。
「男とつるんでどうすんだよ」
「しょうがないじゃない」
「何が?」
「スッチーよりもクロと一緒にいたかったんだから」
「おま……バカじゃねえの!?」
 杉江のあまりの言葉に思わず黒田は絶句した。
 相手は美人で巨乳でスッチーで積極的なおねえさんだぞ、しかもここでしっかり繋いどかないと次がないんだぞ、それを毎日嫌でも顔合わせなきゃならない同じポジションの男の方についてきてどうするよと、黒田の頭の中でそんなことがぐるぐる回る。
 何考えてるんだと罵倒したい気持ちになる。
 ただ、同時に不覚にもちょっと嬉しいだなんて思ってしまう。
「クロ、顔が真っ赤だよ」
「赤くねえよ、バカ!」
 杉江の指摘に黒田は頭から湯気がでそうなほど顔を真っ赤にして、肩を怒らせた。
 それを見る杉江はなぜか嬉しそうだ。
「ラーメンでも食べて帰ろうか」
「醤油な、絶対」
「クロ、まだ顔真っ赤だよ」
「赤くない!」
 そんなやりとりをしながら、この時間でも空いているラーメン屋を目指して二人は歩き始める。
 やれ、あそこはとんこつだから嫌だの、もう閉まってるだの散々歩き回って、ようやくラーメンをすする頃には二人とも美人で巨乳なスッチーのことは忘れた。
 美人で巨乳のスッチーを振り切って自分とラーメンを啜る杉江の真意を黒田が知るのは、まだ少しあとのこと。

 

巨乳とかスッチーとかに弱いクロって可愛いかなと思って。そしてそんなクロに弱いスギ。