ハローグッバイ、ハロー。


 移籍なんて毎年のことだ。
 なので、石浜の移籍に伴うクラブの雰囲気を、
「辛気くせえ」
 としか黒田は思わない。
 そう思わないようじゃなければいけないと考えているから。
 本当は色々と思うところがないわけではなかったが、一騒動して落ち着いてしまえば、それはもうサッカー選手をしていれば当たり前の行事の一つにしか過ぎなくなる。
 学生の頃には、春は季節と決まっていたが、大人になってからは主に夏と冬が出会いと別れの季節だった。大きな怪我もなくトップに上がってから一度も落っこちたことのない黒田にとってはサテライトは遠くなる一方で、外からきていきなりトップチームに合流する若手が現れない限り、高卒ルーキーの合流なんてものも全く縁のない話だった。大体、めぼしい高卒ルーキーなんてのは強豪クラブに吸い込まれてしまうのでETUにはじめから来たりはしない。
 夏と冬は別れの季節。
 それが戦力外で去って行くのでもなければ、可能性を求めての移籍ならめでたいじゃないか。少しは寂しくないわけじゃない。でもそれを悲しいとは思わない。チームを見限ったのではなく、チームに切られたわけでもなく、活躍の場を求めて消えて行く姿に、そんなのは似合わない。プロの選手として当たり前の決断だから。そりゃ、もうちょっと骨のあるやつだとは思ったけどな。今度は敵だけど、お前ちょっとスピードのある奴がくると気負いがちなのはホント何とかしとけよ、そういう時のお前やたらフェイント引っかかるから。
「スギ、今日これからメシ行こうぜ」
 黒田は言いながら、相棒の肩をポンと叩いた。
 何だか飲みたい気分だった。
「清川も誘う?」
 杉江はいつものように穏やかな調子で、付け加えた。
 それから見透したように黒田を見る。
「なんでだよ」
 黒田は少し頬を赤く染めながらそう返す。
 いつも通りの食事の誘いじゃなくて、理由があってのことだと勘付かれたと思ったからだ。
「清川、クロが一緒に飲みたいって」
 言ってねえ!と叫ぶ黒田の声を無視して、ロッカーの前で身支度している清川の方を向いて、杉江は声を張る。無視するどころか、杉江の正面に立つ黒田はちょうど清川を背にするように二人の間に立っているのでご丁寧に黒田を軽く顔を腕で避せた。頭ごしに会話することも出来るだろうに、わざわざそんなことをしたのはもしかしたら杉江の優しさなのかもしれないが、完全に裏目に出て、杉江の腕を押しのけながら黒田はぶりぶり怒っている。
「黒田さんの奢りスか」
「そう、言い出しっぺだから」
「ゴチソウサマです」
 ちょうど挟む形になった黒田をかわして、杉江はそこまで、さっさと話を進めてしまう。
「清川くるって、良かったね」
 今度は黒田に目線を合わせる。
「おい」
「いつものとこでいいの?」
 さっきまで勝手に話を進めてきたと思うとこれだ。
 でもきちんとお伺いを立ててきたので、黒田はぐっと言葉を詰まらせて、それから頷いた。
「行くぞ!」
「クロさん、下まだユニフォームッスよ」
 清川が思わずツッコむ。
 目の前の杉江はしたり顔だ。
 いつもの黒田なら一言どなり返したりするところだが、今日ばかりは見逃してやることにした。

 

ハマが舎弟ならキヨもッスよね!クロさん!と思って。そして堺さんと違ってわりきれてないのでハマに対して思う所ありまくり。