ごはんと赤ワインと金髪
練習後の楽しみといえば何といっても夕食だ。
チームで一斉にとる夕食は、後藤さんいわく「たしなむ程度」に赤ワインなんかが出ちゃったりもする。
どういうわけか今日はベテラン陣と同じテーブルになってしまった俺は、飲み慣れないそれを持て余しながらぐるりとテーブルを見た。正直、アルコールなんてものは基本的には飲み会でのビールぐらいしか飲まないので、食事のタイミングで、しかも赤ワインなんて出されたところで、味なんて分からないし、騒ぐため以外の酒には馴染みがない。
他の人達はどうしてるのかな、なんてちょっと思ったり。して。
ちょっと遠目の王子は、あまりにも王子すぎて参考にならなかったし、見てたのがバレてものすごいスカした王子らしい流し目を頂戴した。ワイングラスに合いすぎてシャレにならないスよ、王子。
村越さんはすでに飲み終わっているみたいだった。
その隣で赤崎はグラスを持ってすごい格好付けてる。
俺は心の中でお前もさてはもてあましてんなと思った。
それから目をピタっととめた。
視線の先には斜め前に座ってる堺さん。
何か赤ワインとか似合うなー。たしか何か体に良いし?と見ていると、堺さんはくるくると手元でグラスを回してる。中身はゆらゆらしててあまり分からないけど、ぱっと見、あんまり減っていないように、みえる。
楽しそうにグラスを回しているのは、普段と感じと違って少し可愛かった。
「あ」
堺さんではなく、隣の丹さんと目があった。
しかも何故か堺さんを見てたのがバレた。
「こいつね駄目なの昔から」
丹さんはガシっと堺さんの肩を抱く。
「なんだよ」
堺さんはそれだけ言って気にした風でもない。
公衆の面前でピッチ上のどさくさでもなく平気で堺さんの肩が抱けて、しかもそれで怒られてないなんて。きっとそんなこと自分がしたら怒られるどころかしばらく誰だお前とか言われて無視されるのがオチだのに。
駄目なのといったのが何なのかも気になったが、それがあまりにもうらやましくて、丹さんに抱かれたままになっている堺さんをじっと見てしまう。
「世良、世良。顔にうらやましいって書いてあるぞ」
「うらやましいスから!」
いつもの飄々とした感じで聞いてきた隣のガミさんに、にぎり拳をつくって返すと、ガミさんだけではなく丹さんにまでものすごく笑われた。肩を抱かれたままの堺さんは心底あきれたといった顔でこちらを見てくる。堺さんの呆れ顔は何げに怒り顔と同じくらい見てる俺にとっては馴染みの表情だ。どっちもそんなにみたい表情ではない。怖いし。
しかも今回は何でそんな顔されるのかはわからない。
「うるせえな」
「何が? 世良が? ソレのことバラしたのが?」
「どっちもだ」
丹さんと堺さんは何だか人をダシに目の前でイチャイチャしてる。
ひどい。
それに丹さん、ずるい。
顔近いッスよ。
「良則くんは前から苦手だもんなー、ワイン」
「ウゼェ」
にやにやと笑う丹さんは堺さんのにらみをものともしない。
同期は偉大だ。
というかもう丹さんが偉大だ。
「前なんて、口つけただけで、苦いだもん。そのくせやたらグラスで遊ぶし」
「あ、ガミッ、テメ」
ガミさんをギッと睨みつける。
この人も何ていうか違う感じですごいと思う。
すごいマイペースだし。
俺ならあんな顔で堺さんに睨まれたらしばらくヘコむ。
「世良?」
堺さんが可愛くてずるい。
何か二人に囲まれてると堺さんが全然いつもの堺さんじゃない。
「うらやましいって顔してる」
「いえ! 羨ましいを通りこして悔しいスから!」
「うっせえお前ら、さっさと食え」
堺さんは怒鳴ると肩にのったままになっていた丹さんの腕を外して、乱暴に食事を再開させる。
「世良、食べないとチビなままだぞ」
「気にしてるのに、ひどいッス」
それはさすがにひどいッス。
それでも俺にやっと声をかけてくれたのが嬉しかったり。
「可哀想なやつ」
丹さんが言った言葉は意味はわからなかったけど、気にならなかったので、やけくそのように食べてる堺さんに続いて、目の前のサラダをもりもり食べた。
堀田も出せればオールスターだったのに!