Moreish


 それはそれは性急だった。
 ほとんど雰囲気が出たのと同じくらいだ。
 世良は床に膝をつきながら、ソファに寝そべる堺の腹のあたりに抱きつくように顔を寄せる。犬が鼻を突っ込む様に堺のシャツの裾に顔を寄せて、少しだけめくれた布のその下にある腹筋をぺろりとなめた。
「せかすなよな」
 堺はそう言って世良の髪を軽く撫でてやると自分のシャツの裾に手をかけ、めくり上げるようにして下から脱いでいく。ただ元々寝転がっていたのをソファに片肘をついて上体を起こしているだけの不自然な体制をしているので一気に脱ぐことができない。片手ではどうしても動きがぎこちなくなってしまうし、おまけに世良がのしかかってきている。
 その間も世良は大人しく待つようなことはせずに、少しずつ持ち上げられる服の下から素肌がのぞくのをなぞるように堺の体を舐めた。へばりつくようにのしかかっていた身を起こして、改めてソファに膝をついて上に乗り上げると、くっきり割れた腹筋からみぞおちを通って胸元へと舌を走らせる。
 あらわになっていく堺の肌は外気に触れる前に世良の熱を感じる。
 舌がというよりもその前にくっつけられた鼻先がくすぐったくて、堺はつい首をすくめてしまう。
 やっとTシャツを頭から抜くとほぼ同時に、追うように顔を出してきた世良が顔をのぞかせて、そのまま口づける。舌が絡まり合うような激しいものではなく、ほとんど触れるだけの軽いキスを何度も何度も重ねて、それから唇もぺろりと舐められる。
「堺さん」
 合間合間に世良は堺の名前を呼ぶ。
 名前をつぶやいて、それでまたぺろりとキスをする。
「堺さん」
 つぶやき続ける名前にいちいち律儀に答えてやったりしない代わりに堺は世良のしたいようにさせながらさっさと自分の下履きを脱ぐ。世良がへばりついているのは上体の方なのと穿いているのがスウェットなのとで、Tシャツを脱いだときほど脱ぐのは面倒ではなかった。手早く脱ぐと、今度は世良の服に手をかける。
 世良は耳やら鼻やら顎やら、とりあえず顔のあたりで突起している場所ならところ構わずに甘噛みをしている。痛くはないが、気持ちいいわけでもない。
 セックスというよりは何やらマーキングか、さもなければ食べてでもいるつもりなのだろうか、その心持ちは堺には理解できない。ただ子供じみたそれがかえって愛おしく思えて彼は心の中で俺もヤキが回ったなとつぶやいた。
「世良、手あげろ?」
 自分にへばりついて中々シャツを脱がせてやりながら、堺はそう声をかける。世良はまだ堺の顔をもみくしゃにしながらマーキングするのに没頭していて非協力的ではないものの、自分で自分の服を脱ぐのをすっかり忘れている様子だ。人肌が欲しくてこうしているんだろうに人の肌に触れるのに夢中で自分の洋服を脱ぎ忘れるなんて滑稽だ。
「こら…ッ」
 世良は、今度は来た道を辿るように顎から胸、みぞおちを通って体のラインを辿るように舌を肌に滑らすと、ぱくりと堺のまだろくに反応もしていないペニスを銜えた。
 あんまりいきなりだったのとお前の服はまだ脱がせかけだと文句も言ってやろうと堺が顔を下に向けると、銜えたまま堺の顔を見上げた世良とばっちり目があった。
 それが何だかあんまりにも、顔を真っ赤にしてあんまりにも必死なので、堺は何もいえなくなってしまう。そうして本日二度目になるが、やっぱり俺もヤキが回ったと思って、世良の頭を撫でたりなんかして誤摩化した。

 

タイトルは「おいしくてもっとほしくなる様な」という意味のスラング。ここからセラサクとサクセラに分離して、やおろうとか思ってます。(思ってるだけで書いてはいない)